陽子線治療で免疫新薬の可能性は拡がる

POINT

・アブスコパル効果
・ICD(免疫原性細胞死)
・全身効果を狙うための戦略

陽子線治療は放射線治療法の一つです。従来の放射線治療の場合、体表面に強く当たり、深いところでは弱くなるのに対し、陽子線の場合は、深いところに最大のエネルギーであるピークを作ることができます(ブラッグピーク)。そのため従来の放射線では正常細胞にも影響するのですが、陽子線ではピークの位置をがんの形や位置に合わせて照射するので、正常組織の障害を減らしながら大きながんにも強い放射線を照射することが可能です。体の機能や形態を守り、副作用を軽減した局所治療と言えます。もちろん、すべてのがんが陽子線で治療できるわけではありません。がんの部位や大きさ、進行状態により、向いているがんと向いていないがんがあります。

最近では陽子線治療と抗がん剤治療・手術との併用から免疫治療との併用まで治療の可能性が広がっています。さらに、陽子線治療は狙ったがんだけを局所的に消去することが第一の目的ですが、実は全身的な波及効果もあります。それは「アブスコパル効果」といい、陽子線により破壊されたがん細胞から天然のがんワクチンが血液中に拡散し、次いでがんを攻撃するリンパ球が生まれます。
さらに、このアブスコパル効果の働きは陽子線によるICD(免疫原性細胞死)という現象により説明されています。細胞死したがん細胞からがんワクチンとしてのがん抗原と免疫強化物質HMGB-1などが複合的にワクチンとして樹状細胞に働きかけ、がん特異的リンパ球を体の隅々へと運んでくれます。ワクチン効果は血液やリンパの流れに乗り、全身を巡り転移したがんも攻撃します。つまり、がん局所を狙った陽子線の二次効果として全身のがん免疫に関わることが最近注目されています。

しかし、このような全身的効果を発揮するには、免疫状態が良好でなければなりません。しばしば、進行したがんでは免疫にブレーキがかかり、免疫状態が弱いことが多く見受けられます。そこで、最近注目の免疫新薬や樹状細胞治療とのコンビネーションが試みられています。そのためには、まず全身の免疫力を血液検査により解析し、最適な免疫新薬の組み合わせと樹状細胞などの補助療法を計画し、そのうえで陽子線治療のタイミングや運用法を考慮すれば最大限の臨床効果を発揮できると考えられます。つまり、一番問題となる所に陽子線を照射し、そのワクチン効果を上手く利用しながら全身的な免疫治療を適切に組み合わせることだと思います。