あわてず慎重に 主役になったがん免疫治療 ―免疫新薬と殺がんペプチドで異次元効果―

本来、個人の免疫力でがんは治ると信じられてきました。
その反面、従来型の免疫治療には障害が存在し続けていましたが、話題になった免疫新薬によってその壁を突破することが現実的に可能となりました。そのため、免疫治療の価値と信頼は大きく変化しています。

●ノーベル賞候補の免疫新薬
10年前までがん医療の主たる現場やメジャーな学会でペプチドワクチンなどの免疫治療はその不確実性から疎外されていました。免疫治療ではがんは治らないと思う医師も多かったのです。患者さんにとっても、免疫治療を実行している我々にとっても長い暗黒の時代でした。しかし、どんなに批判されようと信念を曲げず、免疫力を信じて諦めずに免疫治療の開発を続けていたところ、ノーベル賞候補となった免疫新薬が二年前に登場したのです。その新薬は今までの不信感を一変し、免疫治療を主役の座に一気に引き上げてくれました。かつて批判的だった多くのメジャーながん治療の医師たちも手のひらを返すように好意的になりました。
この新薬は今までがんが免疫治療にしていた邪魔を大きく取り除く作用があります。現在、メラノーマ、非小細胞性肺がん、腎がんに保険適応されています。

●殺がんペプチド本来の切れ味
大きな壁が取り除かれた後、切れ味の良い攻撃力が必要です。つまり、免疫新薬はがんの壁を除くだけで、がんを攻撃してくれる訳ではありません。そこで、次にがんを攻撃する殺がん性のペプチドワクチンが必要になります。従来のワクチンは普遍性が強く免疫的に慣れっこで攻撃力が弱いと思います。プルミエールクリニックでは、異物性の強い殺がんペプチドを開発しています。
免疫新薬と殺がんペプチドの組み合わせは、この約二年の間に目の前の暗雲が快晴に好転する心強い印象を持ちました。

●安全管理の重要性
免疫新薬で免疫力が上がることは良いことですが、間質性肺炎など自己免疫病に注意しなければなりません。いくら免疫療法で副作用が少ないといっても侮ってはいけません。血液、呼吸器、尿など定期的な検査と必要に応じて入院連携が大切です。がん治療の巧妙となったノーベル賞候補の免疫新薬と殺がんペプチドを健全に育成し、多くの患者さん方にその福音を安心して享受していただくためにも、安全管理は欠かせません。

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がん治療法の変化

ここ最近、がんの治療法が大きく変化しています。
従来の-手術、化学療法、従来型放射線治療-など有害性の強い治療から、分子標的薬、重粒子線さらに抗PD-1抗体まで、副作用が以前より少ない治療で、しかも効果も目覚ましい方法が誕生し普及しようとしています。

この秋10月に東京と大阪でする勉強会で、しっかりと解説しまして、一人でも多くの患者さんに 時代の恩恵を享受していただきたいと願います。

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がんとテロメア(11)がん治療応用への可能性Ⅳ

細胞老化を防ぐテロメラーゼ活性が、がんの悪化に深くかかわっていることをお話ししてきました。
このことに着目した新薬・治療法の開発が進んでいます。

(4)がんペプチドワクチンについて
以前にもお話ししましたが、テロメラーゼには、ヒトテロメラーゼRNA(HTER)やヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)があります。がん細胞内では、おもにhTERTによってテロメアのコピーができると考えられています。

このhTERTは細胞内でペプチドに分解され、クラスⅠMHC分子とともに細胞膜表面上に提示され、キラーT細胞やヘルパーT細胞はそれをターゲットにしてがん細胞を攻撃します。
その点に着目した治療法が、「テロメラーゼがんワクチン療法」です。

「GV1001」というがんペプチドワクチンは細胞に取り込まれた後に細胞膜表面上に提示され、hTERT特異的CTLの活性化を誘導します。
現在、このワクチンは、非小細胞肺がんやすい臓がんを対象にした臨床試験が行われている最中です。

一方、「GRNVAC1」は患者から採取した樹状細胞にhTERT遺伝子を導入したワクチンも開発されています。

いずれも、強い免疫応答(免疫反応)があった患者では、がんの縮小や生存期間の延長などの成果がありました。また、副作用が比較的少ない点でも有望な治療法であるといえるでしょう。

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がんとテロメア(10)がん治療応用への可能性Ⅲ

細胞老化を防ぐテロメラーゼ活性が、がんの悪化に深くかかわっていることをお話し
してきました。
このことに着目した新薬・治療法の開発が進んでいます。

(3)ウイルス医薬品について
「テロメライシン(OBP-301)」は、がん細胞で特異的に増殖し、がん細胞を破壊できる
ように遺伝子改変された5型のアデノウイルスです。
ちなみに、5型のアデノウイルス自体は風邪の症状を引き起こすもので、自然界の
空気中にも存在します。

テロメライシンはテロメラーゼ活性の高いがん細胞で特異的に増殖してがん細胞を
溶解させる強い抗がん活性を持つのです。
さらに、正常な細胞の中では増えにくいので、理論上、安全性の高い抗がん剤と
期待されています。

また、放射線治療や化学療法剤との併用で、制がん効果が増すことを期待できることも
明らかになっているのです。
このテロメライシン以外にも、同様なアデノウイルスによる遺伝子治療の研究も進んでいます。

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がんとテロメア(9)がん治療応用への可能性Ⅱ

細胞老化を防ぐテロメラーゼ活性が、がんの悪化に深くかかわっていることを
お話ししてきました。このことに着目した新薬・治療法の開発が進んでいます。

(2)テロメアDNAを標的とした薬剤について

テロメアはG-quadruplex(G4)という構造を形成して安定します。
「テロメスタチン(telomestatin)」という微生物から分離された天然G4のリガンド
(特定の受容体に特異的に結合する物質のこと)は、G4 の形成を促進。
G4構造が形成されると、テロメアの複製を含むテロメラーゼ活性の低下が起こり、
テロメアの伸長が抑制されます。その結果、細胞死が起こるのです。

すなわち、テロメスタチンはテロメアを直接攻撃することで、即効性の高い制がん効果を
発揮するといえるでしょう。

テロメスタチンをはじめ、BRACO-19、RHPS4、TMPyP4といったG4リガンドの制がん効果は、
動物実験などで確認されています。

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がんとテロメア(8)がん治療応用への可能性Ⅰ

細胞老化を防ぐテロメラーゼ活性が、がんの悪化に深くかかわっていることを
お話ししてきました。このことに着目した新薬・治療法の開発が進んでいます。

(1)がん分子標的薬としてのテロメラーゼ阻害剤について

テロメラーゼには、ヒトテロメラーゼRNA(HTER)やヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)が
あります。がん細胞内では、おもにhTERTによってテロメアのコピーができると考えられて
います。

一方で、がん細胞内でhTERTの不活化した変異体が過剰発現するとテロメラーゼ活性が
抑えられ、テロメア短縮・アポトーシスが起こります。
以上のことから、テロメラーゼの阻害はがん細胞を叩くための有効な手段の一つだと
いえるでしょう。

そこで、「MST-312」「BIBR1532」「クロラクトマイシン」といった、がん細胞の
テロメアの短縮を促し、細胞老化やアポトーシスを誘導する「テロメラーゼ阻害剤」の
開発が進んでいます。
「GRN163」など動物試験レベルで高い制がん効果を示すテロメラーゼ阻害剤も
出てきています。

また、がん細胞のテロメアは周辺の正常組織や生殖組織のテロメアに比べて
短いことが多いので、テロメラーゼ阻害剤の抗がん効果は副作用よりも早く
あらわれると思われます。

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がんとテロメア(7)細胞老化とがん抑制

前回、「テロメア短縮による細胞老化」と「それ以外の細胞老化」という2段構えの壁を
乗り越えて、がん細胞は生じている、という話をしました。

それではどんなときに細胞老化は起きるのでしょうか?

細胞老化を起こすには大きく、がん抑制遺伝子p16/RBを介するパターンと、
がん抑制遺伝子p53/p21を介するパターンがあります。

p16、RB、p53、p21の4種類はいずれもがん抑制遺伝子であることから、細胞老化とがん抑制が
密接な関係にあると考えられています。
実際、p16/RBルートとp53/p21ルートが失活していると、細胞老化が妨げられるだけでなく、
がん細胞が活性化しています。

このことからも、正常な細胞老化はがんを抑制するために重要であることをご理解いただけるはずです。

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がんとテロメア(6)テロメア長に関係のない細胞老化について

前回まで、細胞死・細胞老化にはテロメア長が深く関係しているというお話をしてきました。
ところが、中にはテロメアに無関係な細胞老化が起こることもあるのです。

その要因には、活性酸素などによる酸化ストレス、DNA損傷などに加え、異常に強くなった
細胞増殖シグナルが挙げられます。
この細胞増殖シグナルが強まる原因には、がん遺伝子の活性化やがん抑制遺伝子の
失速などがあります。

テロメアと無関係な細胞老化は、がん原遺伝子の活性化やがん抑制遺伝子の
不活性化による発がんを抑えるシステムとして重要だといえるでしょう。
裏を返せば、「テロメア短縮による細胞老化」と「それ以外の細胞老化」という2段構えの
壁を乗り越えて、がん細胞は生じているのです。

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がんとテロメア(5)不老化細胞とテロメラーゼの関係(後編)

不老化細胞ではテロメラーゼ活性があるというお話をしました。
それではテロメラーゼ活性を失うとどういうことが起こるでしょうか?

テロメラーゼ・ノックアウトマウス(人工的にテロメラーゼ活性を失わせた実験用マウス)では、
第一~三世代(孫の代)まで異常はみられませんでした。しかし、第四~五世代では
生殖能力などで異常が発生していました。

また、テロメラーゼはただちに細胞のがん化を促すものではありません。
が、テロメラーゼがないために短くなったテロメアはがんを防ぐ手助けをしていると
考えられます。

実際、後期世代のテロメラーゼ・ノックアウトマウスは野生マウスに比べてあきらかに
がんの発生頻度が低下します。
しかも、テロメラーゼ活性を復活させたマウスではがん化能もまた復活しました。
すなわち、テロメアを持つ細胞のがん化にはテロメラーゼが重要であると考えられるのです。

テロメラーゼそのものはがん遺伝子の産物ではありません。しかしながら、がん細胞の
無限増殖を助けることで、がんの悪性化やその維持に寄与しているといえるでしょう。

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がんとテロメア(4)不老化細胞とテロメラーゼの関係

死を迎えず無限に増殖する不老化細胞があるというお話をしてきました。
それでは不老化細胞のテロメアはどうなっているのでしょうか?

ウイルス感染して分裂寿命が延びた細胞を調べたところ、テロメアは依然として
短縮し続けていました。
ところが、クライシス後に出現した不老化細胞では、テロメアは短縮していません。

これは「テロメラーゼ」というテロメア合成を司る酵素が活性化していることで、
テロメアが安定化しているためです。
つまり、テロメラーゼ活性によってテロメアの長さは保たれているのです。

このようなテロメラーゼ活性は人工的にがんウイルスで不老不死化された細胞株だけに
あるわけではありません。生殖細胞でも見られます。
(ただし、成熟した精子や卵子では消失しています)

また、血液・皮膚・消化器などの幹細胞は弱いテロメラーゼ活性を持っています。
そして、がん患者さんのがん細胞でもテロメラーゼ活性があるのです。
一方で、ほかの正常な細胞ではテロメラーゼ活性はほとんどみられません。
これらのことから、テロメラーゼ活性はテロメア長を保つ働きがあると考えられます。

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