がんの自然死(アポトーシス)について(5)アポトーシスの抑制原因・IAPファミリー(前編)

先日、アポトーシスのメカニズムについてご説明しましたが、
ではアポトーシスの異常が起こるには、どんな原因があるのでしょうか?

その一つに、「IAPファミリー」というカスパーゼ活性阻害タンパク質の存在が関係しています。
IAPファミリーとは活性化カスパーゼに結合して不活性化させることで、
アポトーシスを強力に抑制するタンパク質群です。
代表的なものには、XIAPやsurvivin(サバイビン)などがあります。

体は本来、細胞の殺し屋のカスパーゼと、それを退治するボディーガードのIAPファミリーを
うまく使い分けることで、アポトーシスをコントロールしています。
ところが、IAPが異常に増えてしまうと、本来のアポトーシスが阻害されてしまうのです。
実際、多くのがん細胞ではIAPファミリーが過剰に発現しており、
それがアポトーシスを妨げていると考えられています。

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がんの自然死(アポトーシス)について(4)アポトーシスを左右するカスパーゼとは?(後編)

前回、細胞のアポトーシスにはカスパーゼという酵素の活性化が必要だという話をしました。
この点に着目してカスパーゼ活性をコントロールする薬の研究・開発も進んでいます。

その一つがカスパーゼ活性を抑える薬(カスパーゼ阻害剤)です。

カスパーゼ阻害剤は、肝臓、心筋、腎臓、腸、及び、脳の虚血-再潅流で
引き起こされる損傷に対するアポトーシスを抑制し、これら臓器の機能を保つことが
動物試験で確認されています。

また、外傷性脳障害、筋委縮性側索硬化症、パーキンソン病などにも
カスパーゼ阻害剤が効果あるということが動物実験でわかってきました。

反対に、カスパーゼ活性を促すタイプの抗がん剤の研究・開発も進んでいます。
これについては後に詳しくご説明いたしましょう。

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がんの自然死(アポトーシス)について(3)アポトーシスを左右するカスパーゼとは?(前編)

前回、アポトーシスの異常はさまざまな病気を引き起こすことをご説明しました。
アポトーシスの異常がなぜ起こるのかをお話しする前に、
まずはアポトーシスのメカニズムについてご説明しましょう。

細胞のアポトーシス(自然死)という現象はカスパーゼという酵素が
細胞の中で活性化することでおきます。
カスパーゼは普段は不活性な前駆体(化学反応などによってある物質が
生成される前の段階にある物質のこと)として細胞内に存在します。

しかし、ある種の刺激が加わることで活性化が起こり、
それによって細胞がアポトーシスするのです。
このカスパーゼは数種類あり、ほかのカスパーゼを切断して活性化するという
カスケード(連鎖的増殖反応)を起こすことで機能します。

また、細胞をアポトーシスさせるという役割だけでなく、ある種のカスパーゼは
サイトカイン(インターロイキン-1β)を活性化させることで、免疫系の調整にも
関与するという大切な役割があります。

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がんの自然死(アポトーシス)について(2)アポトーシス異常と病気の関係

前回、アポトーシスとは個体をより良い状態に保つために起きる、
プログラムされた細胞の死だということを説明しました。

このアポトーシスの異常はさまざまな病気と関係があることが
研究によって明らかになっています。

その一つがアルツハイマーです。
アルツハイマー患者の脳にはアミロイド-β-ペプチドというタンパクが沈着。
このタンパクの蓄積が引き金となって神経細胞が過剰なアポトーシスを起こすことが、
アルツハイマーの進行に深くかかわっています。

また、エイズではHIVウイルスによって免疫細胞の一種・ヘルパーT細胞が
どんどんアポトーシスすることで免疫不全に陥ってしまうのです。

これらは過剰なアポトーシスが起きることによって生じる病気ですが、
反対にアポトーシスが抑制されるために起こる病気があります。
その代表ががんです。

正常細胞がアポトーシスを逃れて生き延びているうちにがん化してしまうことが、
がん発症の大きな要因の一つとなっています。
抗がん剤はこのがん細胞をアポトーシスさせることを目的に投与されます。
しかしながら、がん細胞がアポトーシスを起こしにくいことが抗がん剤耐性の
一因となっているのです。

このことから、「がん細胞をいかにアポトーシスに導くか」が、
がん治療の大きなテーマになることがおわかりいただけるでしょう。

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がんの自然死(アポトーシス)について(1)細胞のアポトーシスとは

私たちの体は放射線や有害物質などによってDNAがダメージを受けると、
細胞は死んだり(細胞死)、老化する(細胞老化)ことで増殖をやめてしまいます。
そうすることで異常な細胞が増えるのを防ぎ、体を守っているのです。

がん遺伝子の活性化によって異常をきたした細胞も、細胞死・細胞老化を起こすことで
がんの発症・増殖を防いでいます。
つまり、この抑制システムが機能しなかったときに、がんが発症するのです。
しかも、抑制システムを突破したがん細胞は、細胞死や細胞老化を起こしにくいという
やっかいな性質をもつようになります。

ちなみに、細胞死には大きくわけて「アポトーシス(自然死)」と「ネクローシス(壊死)」が
あります。

アポトーシスとは個体をより良い状態に保つために積極的に引き起こされる、
管理・調節された細胞の自発死です。
例えばオタマジャクシからカエルにかわるときに尻尾がなくなるのも、
尻尾の細胞がアポトーシスするからです。
一方、ネクローシスは大量の放射線や活性酸素、感染など細胞内外の急激な
環境悪化によっておきる細胞死のことを指します。

がんはとくにアポトーシスと深い関係があります。
次回以降はがんとアポトーシスの関係について説明していきましょう。

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前向きながん治療・抗がん剤との付き合い方(12)がんの克服法・がんペプチドワクチン

キラーT細胞はがん細胞の表面にあるペプチド(抗原)を標的として、
がん細胞のみを攻撃します。その性質を生かし、がんペプチドを人工的につくって
投与するのが、がんペプチドワクチン療法です。

がん幹細胞はがん特有の特徴を持っているので、がんペプチドワクチン療法が
効きやすいのです。
例えるなら、樹状細胞やリンパ球は自動車で、がんペプチドワクチンは運転手のようなもの。
腕のいい運転手がいるからこそ高性能な自動車はがん幹細胞という目的地に到着することが
できるのです。

当院でも樹状細胞やリンパ球にがんペプチドワクチンを搭載して戻す治療を行っていますが、
治療成績は以前に比べて上がってきていると感じています。

現在、世界中の製薬会社ががんペプチドワクチン薬の開発を競って進めています。
そのうちのいくつかは、1~2年以内に認可されるといわれています。
このことからも、全世界的な流れは免疫療法になってくるといえるでしょう。

ただし、前回紹介したスルファサラジンもがんペプチドワクチンもまだまだ新しい治療法なので
その実力は未知数といえます。これからの流れを注視する必要があります。

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前向きながん治療・抗がん剤との付き合い方(11)がんの克服法・スルファサラジン

現在、残念ながらがん幹細胞をターゲットにした薬はありません。
多くの製薬会社ががん幹細胞を標的にした新薬の開発を急ピッチで進めていますが、
実用化までの道のりは険しいものがあるようです。

ただ、既存の治療法でがん幹細胞に効く可能性があるものとしては
「スルファサラジン」と「がんペプチドワクチン」があります。

現在使われている約1500種類の薬剤の中からがん幹細胞に効くものを
スクリーニングして見つけたのが、慢性関節リウマチや潰瘍性大腸炎で
使われている薬・スルファサラジンです。マウス実験ではがんの増殖、転移を
抑えることが確認されています。

ただ、この薬だけではがんは治らないのではないか
と、私は思っています。
例えば、抗がん剤の効きが悪くなった、あるいは量を減らしたいという時に、
自費薬として試行することを考えることもできます。
また、使用する際には、副作用など、医師のしっかりした管理が必要になります。

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前向きながん治療・抗がん剤との付き合い方(10)がん幹細胞について(後編)

抗がん剤を使って良いのは、
「副作用で日常生活に支障が出ない程度の安全な量の抗がん剤を投与して、
3か月でがんの大きさが1/3くらいになる」ケースだと、私は考えています。

抗がん剤を使用している間はがんの痛みからも解放され、普通に生活できるわけです。
さらに、小さくなったタイミングで免疫治療や放射線治療で一気にがんを排除できれば、
治療は成功といえるでしょう。

しかし、副作用が激烈で、3か月経っても小さくならないような抗がん剤だったら、
医師として使用することを躊躇します。
むしろ、使用しない方が、QOLを保ちながら延命できるかもしれません。

「安全な量で小さくなるか」を見極めないと、大損ばかりをしてしまうことになります。

ただし、抗がん剤が効いたとしても、半年後、幹細胞だらけの悪性度の高いがんに
なっていることがあるのを覚悟してやらなければならない。

今ではこのような抗がん剤治療の問題点が広く認知されるようになり、
オーストラリアなど海外では抗がん剤の使用がかなり慎重になってきています。

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前向きながん治療・抗がん剤との付き合い方(9)がん幹細胞について(中編)

前回、抗がん剤治療によってがんが小さくなった後、再び大きくなり出したときには
悪性度が増しているという話をしました。

それでは抗がん剤治療をしなければどうなっていたのでしょうか?
――実はがんはゆっくり、ゆっくりと大きくなっていくのです。

例えば、直径10センチのがんがあり、抗がん剤を使わなければ6か月後、
直径20センチのがんになっていたとします。

しかし、同じがんに対して抗がん剤をしていた場合、増悪期になったときに成長は
大幅に加速し、もしかすると、がんは直径40センチの大きな塊になっているかも
しれないのです。

つまり極端な話、6か月後、1年後を考えたとき、
抗がん剤をやっていなかったほうがまだ良かった、ましだった…
ということもあり得るのです。

もちろん、抗がん剤の効きやすいがんもありますし、
あるいは、一時的レスキューになったり、
放射線や手術と組み合わせることで完治する場合がある
ということも事実です。

そこで、抗がん剤をどういうケースで使うべきかについて、
次回お伝えします。

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前向きながん治療・抗がん剤との付き合い方(8)がん幹細胞について(前編)

がんの塊というのは蜂の巣と一緒です。

がんの中心部分に「がん幹細胞」という、がんの子どもを生み出す女王蜂がいます。
その周りに、働き蜂にあたるがんの子細胞がいるのです。

抗がん剤というのは子細胞にはよく効きます。
ところが、女王様には全く効かない。いわば、殺虫剤と一緒でおおもとには効果がないのです。

抗がん剤によって働き蜂がどんどん死んでいくと、蜂は驚いて、今度は抵抗力のある
女王蜂だけを増やそうとします。
それによって、女王蜂だらけの強いがんができてしまうのです。

例えば、もともと直径10センチのがんの塊があったとします。
抗がん剤治療によって3か月後、一旦は直径3センチまで小さくなったとします。
しかしこれは一時的なもの。

女王様はぜんぜんびくともしていないのです。
その後、がんが直径10センチの塊になったとしたら、困ったことに、当初のがんに比べ、
悪性度が増しています。
そこからはがんの進行が早くなってしまうのです。

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